射位にて
「斯くして退きて弓を射る所に連りて立ったまま的を見まする、其儘下に座して的に向ひます。
其時左の膝を上げ、右の膝を附けます。勝手(右手)を膝頭に附くまで下します。」
三足に後退。射線に跪坐、的に目礼。右拳床に付ける。
「右の膝を立て左の膝を下げながら的を左に受けて向を換えまする、そうして弓を自分の體の中央に
斜めにだします。」
左爪先を基点として正面に向き直りつつ末弭を斜右上に上げ、腹の前で籐頭を右手三つ指で受けると共に左手は軽く下一の節になで下げ、弓を右へ押しやるに従い、手下の節の辺に運ぶ。
「それから直ちに右の手を出して右手の三指で籐竹(矢摺籐の上)の節を取りて
右の膝の角に置きます。其時左手は弓の手下に添ひて右の膝の向ふに置きます。」
弓は右膝の前に立てる。
「夫れより左手を放す途端に其手を左の袖の内の袖口を押へて指をば袖口の中で揃え拇指にて上の
折り目の端の所を押へ、残りの四指では内を押え、夫れなり、我胸の中頃まで折り返します。
丁度袖の紋が見物人の眞向に向く恰好に致します。夫れより手を其儘づつと的に差し附けます。
其押へて居る拇指の先を的の中心を思ふ所に袖をさします。又前の如くに一度袖を返して體につけます、そうして其左手を袂に入れくつろげて肌を脱ぎ好い様に致します。つまり左肩を下げ
右肩を上げる様にいたしますると脱ぎよくなります。夫れから手を差し出して今や左の手の肱が
離れやうとする所まで出します。肌をすうと脱ぎます、肌を脱ぐとすぐに右手を後に廻しながら
脱ぎたる袂の先を押へて袴に押し込みます。それは何の為めかといふに、弓は必ず山野若しくは
廣き場所にてするが普通にてありますから、風の當りも強く為に袖が過つて弓と弦との間に入らぬ
とも限りません。其様なる失錯もあれば充分なる用意をなし風が當つても袖が自分の前の方に
吹き寄せられぬ様にと挟むのであります。其挟むに上から下へするか但しは下から上に挟むのが
順序かといふに之れは何れでも宜しう御座います。其人の都合のよき様にすれば好いのであります。」
肌ぬぎ。左手を袖の中に入れ袖山に沿って左手を伸ばす。(袖口は三つ指でとる)肘を張り袖を折り返し、また伸ばして、内懐に手を入れ襟をくつろげ(手先を出さず、肘を先に出して)肌をぬぐ。目は的からはなさない。
「そこで右に取りました弓を自分の體の中央に持ち、斜めに持つてすぐ左の手で握りを押へます。」
弓を左手に移す。右拳を基点として弓を斜めにすると共に、左手を手下の節あたりに軽くあててすり上げて握りをとる。右拳は腰に納める。弓は左膝の前に立てる。
「それから左の膝に弓の本弭をつけます、其時弓の弦は的の方にありて弓は右の方にあります、
それから右の手を延べて弦の手下より少し下れる所を三指で押えて正面にぐるりと廻して持つて
参ります。それから矢を番ふ場合となります。」
矢の羽が、やや右前にくるように右拳をひねり、小指を矢の間に入れて甲矢乙矢を見分ける。
「それから弓の外の方から右手を廻して唯今の様にして
見分けた甲矢の方を先に左の手の人差指と中指との間に押えて筈の所までこき出して、そうして
筈を番ひます」
弓の弦を右手で返して中央に弓を立て、甲矢をつがえ、乙矢の筈を床に付け、三つ指で板突辺を保つ。
「それからすぐに右の手を逆に返せば乙矢の矢の根は右に向き矢筈は的の方に向ひ
ます。これは左の手の中指で押へて矢を二本番ひた恰好で御座います。乙矢をこき出して射附の
節と弦とが恰好する様にさし込みます。」
乙矢を霞に打ちこむ。走り羽は上。中指と薬指とで挟む。
「そうして始め番ひました甲矢と逆さの乙矢と二本を右手の三指で押えて、甲矢の筈が弦からとれぬ様、又乙矢を落す過失なき様に三指で押へて立ちます。」
筈を保ち、束に立つ。二束に足踏みをし、胴造をなす。
乙矢を抜く。まず三つ指(拇指下)で、上から射付節辺をとり篦中辺まで抜く。
「左の足を踏み出して的の中央を狙ひ左右の踏み方を定めます。そうして此邊が的の中央である
と考をつけたとき、左の足を規則として教の通り右足を開きます。」
「それから乙矢の板附を右手の三指で持ち、本矧の所まで弓の角へ引き出しまして一時止まります。
それで乙矢は篦中の節が取れる所まででますから、其篦中の節を右手の三指で持ちて筈まで抜き
取ります、」
引き抜いた乙矢の筈が右足先きにつくようにして篦中を支えた指をゆるめて、板突を持つ。
「其矢は下に置くとも或は袴の膝に立て掛くるも適宜ではありますが、射禮には下に
置くことを好いと致します。」
次に拇指を上にして三つ指で受けて引き抜く。
そのまま筈を基点として板突が左足先にくるように右手を運んで床に倒した後に右手は腰にとる。
「取り懸けをして射前に掛ります」
會。
残身。
「射前にかかりて射終わりますると元の通りに矢の所に両足を
右から引き寄せ左を引き束になりて下に下がります。そうして乙矢の筈を右手にとり己れの
右の方に引き廻し根の所が取れる所まで廻します」
甲矢を射て跪坐し、乙矢の筈を持ち、後へ引き回して板突辺をとり、弓を左膝頭の前に立て、弦を右手で返し正面に運び乙矢をつがえる。
「其根を取りて甲矢を番ふ如くにして番ひます。
弓を左の膝の頭に置き矢を右の膝頭に立てて右手の三指で弦の手下より下の所をぐるりと引き廻し
體の正面に持って参ります、それから矢を番ひます、其番ひ方は甲矢の通りに致します。」
「矢を射放したる儘弓をば體の中央に斜めに持ちて屈みます、それから左の膝頭に弓を立て右の
三指で外竹の矢摺籐の節を持ちまして右の膝先に移します。」
乙矢を射終わり足をとじ、左を少し引いて沈みながら弓を斜めにし、肌脱ぎ前の要領で弓を右膝頭前に立てる。(左足を引いているから当然右膝が立つ)
「左手はすぐに袂を取り、途端に右の
襟に左の手をさし込みます。左の肌を入れるに左手を右に入れるは不案内の人は不思議の様に思
ひますが、左の肱が越した位まで左手をさし入れると獨りでに左の襟があきます。そこで容易に
左手が左の袖の中に通ります。肱を左に入れて手を伸ばして袖先に出します。」
「袖先まで手が出たならば右手の弓を體の中央に斜めに出し、握りを左手に取る、左手に取る途端に右手で左の袖の
袂を抑え弓は左の脇の下にかかえ左方にぐるりと廻り膝を立てる」
肌を入れ、右足爪先を基点として的正面に向き直る途中。
「そうして右手にて内の方の襟を取りて之を正し、次に左の首根の襟を取りて衣紋を直します。手をぬきたる途端に左の襟をとりて
衣紋をつくろひます。そうして前の襟先を右手で押えてせく様にすると締まりまする。襟が締まり
ます。」
的正面に向き直り、右手で衣紋を直す。的に目礼して下がる。
射禮解説トップに戻る BACK NEXT
このホームページは一般財団法人本多流生弓会が提供しています。
掲載内容の無断転載を禁ず。
Copyright(C)Hondaryu Seikyukai Foundation